神は漆黒の空に、太陽と月を生み出した。
眩い太陽は祝福され、多くの命と共に生活を始める。
対して、仄暗い闇の中、月は孤独のまま。
やがて月は、深い悲しみと寂しさのあまり、涙を流した。
白銀の雫を。
月の涙の美しさに心を奪われた神は、
それを拾いあげると命を与え、自らの遣いとした。
故に月の涙から生まれた彼らは、太陽の黄金の光ではなく、
月の純白の光で出来ているという──
とある夜、僕らが育った孤児院の院長先生に呼び出され、
貴族であり名士として住人達から敬意を払われているが、
街から離れた場所へ屋敷を構え、人目から隠れるように
住んでいる変わり者といわれているセモン様の屋敷に
使用人としてお仕えすることを言い渡された。
早速翌朝、僕は孤児院で妹のように一緒に育った女の子・ナナと
人里離れた豪華で、広い屋敷へと赴くことになる。
「私が当家の主人のセモンです。
ようこそ、ユウ。これからしっかり働いてください」
変わり者の主人・セモンさん。
その使用人である偏屈な老人・レムさん。
そして、僕やナナと同じく孤児院で育ったシア姉。
彼らから快く迎えられた僕は、小さな部屋を与えられ、
新しい生活をはじめることになった。
ある晩、僕は屋敷に地下室があることを知る。
鍵も偶然に──
皆が "近寄るな" と言う地下室。
けれども、どうしても好奇心に抗えなかった僕は、
皆が寝静まった夜、鍵を片手に部屋を出た。
暗い地下室のその奥に、重たそうな扉が一つ。
その扉の奥には──
人形のような──アルビノの少女。
例えるなら、夜空を照らす淡い月の光のように
冷たく、優しく、白い存在に。
僕は、出会ってしまった──